永夜譚 SideA
- 商品コード
- 2000000060620
- 商品名
- 永夜譚 SideA
- サークル
- かのね屋
【作家】D
【発行日】2010/08/14
【サイズ】A6判(文庫)
失われたのは月か、それとも夜の魔力か。
満月を奪われた幻想郷は、永い夜を迎える───────
(本文一部抜粋)
/なよ竹のかぐや姫
老爺(ろうや)はいつものように山へ竹を採りに来ていて、その異常に気がついた。
昨日伐採した竹の切り口がぼんやりと白い光を放っている。中に何か光を放つ物が入っているようだ。蛍にしては輝きが強すぎるなと思いながら中を覗き込むと、そこには小さな子供の姿があった。
あまりのことに一瞬我を失ったが、竹の中で柔らかく微笑むその姿に、老爺はこの子は天か
らの授かり者なのだろうと得心(とくしん)する。
老爺はその子をそっと抱き上げた。それと同時に僅かに灯っていた光が消える。何かカラクリのようなものでもあったのだろうか。それともこの子がもう必要ないと判断したのか。
いずれにしても不思議なことがあるもんだと、老爺はただ驚くことしか出来なかった。
不思議といえば、その子供は小さいながらも赤子ではなく、もう既に数歳の子供の姿をしていた。普通に小さいという意味ではない。まるで子供が遊ぶ人形のような大きさであるその姿は、彼女が普通の人間ではないことを表していた。
しかしそれでも老爺は放っておくことも出来ず、眠り続けるその子供を抱いて家へと帰った。
「婆さま。今いつもの竹林で────── 」
小さな子供を抱いて帰ってきた夫に驚きながらも、老婆は夫の話を聞くにつれ、うんうんと頷き、
「そうだね。この子は天からの授かりものだよ──────」
そう言ってその子を育てることに決めた。もともと老夫婦の間には子供がなく、自分と同じく授かりものと言った妻の言葉に老爺も頷き、その子を大事に大事に育てていくこととなった。
小さな子供は病気をすることもなく、すくすくと育っていった。その成長の速さはまさに竹のごとく。僅か三ヶ月で小さな子供は見目麗しい少女へと変貌を遂げる。
大きさも普通の人間となんら変わることのない姿にまで育ち、老夫婦は彼女が竹から生まれたことを忘れそうになっていた。しかしそれでもやはり少女が普通の人間ではないことを、老夫婦はその姿を見るたびに思い知らされた。
あぁ。その美しい顔立ちの可憐なことよ。陽の下で微笑む少女はどこまでも美しく、世の多
くの男どもを虜(とりこ)にする。
しかし老夫婦は気がつくべきだったのかもしれない。
月影に浮かぶ少女のその妖艶(ようえん)な笑みを。その美しさすらも全てを惑わす甘美な毒であること
を。
かぐやと名付けられた少女は今日も夜な夜な月を見上げている。
その視線は慈しむようであり、懐かしむようであり。しかしその中に僅かに憎悪と恐れを含み。そこにある全ての狂気を受け止めながら、彼女はただ静かに月を見上げる。
月に帰る日を夢見ながら。
月に帰らないことを願いながら。
────── それはもう、書物の中にしか残っていない物語。遠い、遠い彼方の記憶。
サンプル画像
【発行日】2010/08/14
【サイズ】A6判(文庫)
失われたのは月か、それとも夜の魔力か。
満月を奪われた幻想郷は、永い夜を迎える───────
(本文一部抜粋)
/なよ竹のかぐや姫
老爺(ろうや)はいつものように山へ竹を採りに来ていて、その異常に気がついた。
昨日伐採した竹の切り口がぼんやりと白い光を放っている。中に何か光を放つ物が入っているようだ。蛍にしては輝きが強すぎるなと思いながら中を覗き込むと、そこには小さな子供の姿があった。
あまりのことに一瞬我を失ったが、竹の中で柔らかく微笑むその姿に、老爺はこの子は天か
らの授かり者なのだろうと得心(とくしん)する。
老爺はその子をそっと抱き上げた。それと同時に僅かに灯っていた光が消える。何かカラクリのようなものでもあったのだろうか。それともこの子がもう必要ないと判断したのか。
いずれにしても不思議なことがあるもんだと、老爺はただ驚くことしか出来なかった。
不思議といえば、その子供は小さいながらも赤子ではなく、もう既に数歳の子供の姿をしていた。普通に小さいという意味ではない。まるで子供が遊ぶ人形のような大きさであるその姿は、彼女が普通の人間ではないことを表していた。
しかしそれでも老爺は放っておくことも出来ず、眠り続けるその子供を抱いて家へと帰った。
「婆さま。今いつもの竹林で────── 」
小さな子供を抱いて帰ってきた夫に驚きながらも、老婆は夫の話を聞くにつれ、うんうんと頷き、
「そうだね。この子は天からの授かりものだよ──────」
そう言ってその子を育てることに決めた。もともと老夫婦の間には子供がなく、自分と同じく授かりものと言った妻の言葉に老爺も頷き、その子を大事に大事に育てていくこととなった。
小さな子供は病気をすることもなく、すくすくと育っていった。その成長の速さはまさに竹のごとく。僅か三ヶ月で小さな子供は見目麗しい少女へと変貌を遂げる。
大きさも普通の人間となんら変わることのない姿にまで育ち、老夫婦は彼女が竹から生まれたことを忘れそうになっていた。しかしそれでもやはり少女が普通の人間ではないことを、老夫婦はその姿を見るたびに思い知らされた。
あぁ。その美しい顔立ちの可憐なことよ。陽の下で微笑む少女はどこまでも美しく、世の多
くの男どもを虜(とりこ)にする。
しかし老夫婦は気がつくべきだったのかもしれない。
月影に浮かぶ少女のその妖艶(ようえん)な笑みを。その美しさすらも全てを惑わす甘美な毒であること
を。
かぐやと名付けられた少女は今日も夜な夜な月を見上げている。
その視線は慈しむようであり、懐かしむようであり。しかしその中に僅かに憎悪と恐れを含み。そこにある全ての狂気を受け止めながら、彼女はただ静かに月を見上げる。
月に帰る日を夢見ながら。
月に帰らないことを願いながら。
────── それはもう、書物の中にしか残っていない物語。遠い、遠い彼方の記憶。